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思い込んだら命がけ [歌謡曲]

青年の樹02.jpg

石原慎太郎が亡くなったとの報道からさほど間もなく西村賢太の死が報じられた。
90歳に届こうかという石原さんに比べ、まだ50代半ばという西村さんは死ぬには早すぎる。死因は報じられていませんが、急死だそう。
命の不思議です。長生きする人、早世する人。神の選別でしょうか。
西村賢太の芥川賞受賞作「苦役列車」の文庫版では石原慎太郎が巻末の解説を書いている。


どちらの作家も多くはありませんが、小説もエッセイも読んだことがあります。石原さんは若い頃(といってもリアルタイムではありませんが)、西村さんは高齢になってから。石原さんはその「てらい」が鼻についたし、西村さんの「純私小説」もナイーブな存在は認めるけれど(偉そうですね)、「露出癖」も度々だと胃薬が欲しくなってしまう。車谷長吉氏よりは文士だったような気がしますが。

「つき合い」が長かった分、今回は石原さんを。

石原慎太郎はやっぱり作家だと思います。政治家といわれてもいまひとつピンとこない。

小説家のなかには流行歌の作詞をする人がいます。流行歌は昔気質の純文学者にとって、下世話で唾棄するものかもしれません。「詩は書いても詞は書かない」なんて。なかには歌謡詞も漢詩や俳句、川柳さらには短歌のようにおもしろいじゃないかと、積極的にかかわる作家もいます。

その代表的な作家が五木寛之でしょうか。ある意味昭和「演歌」の誕生にかかわった人ですから。ヒットしたものをあげると「青年は荒野をめざす」(フォーク・クルセダーズ)、愛の水中花(松坂慶子)、織江の唄(山崎ハコ)、女人高野(田川寿美)、海を見ていたジョニー(渡哲也 これはヒットしてないか)など。

反対に作詞家から小説家になるひともいます。代表的な作家がなかにし礼と山口洋子。阿久悠もいくつか小説を書いております。

そして石原慎太郎もまた流行歌の作詞をしています。そこそこ流行歌の詞を書いているようで、最後は6年前の五木ひろしの「思い出の川」だそうです。

そんな慎太郎の歌をいくつか。

まずはその嚆矢となた「狂った果実」。昭和31年の日活映画主題歌。

https://youtu.be/IzoM1znmy0w

慎太郎原作の映画化で、脚本も書いた。監督はカルト的ファンがいる中平康。弟裕次郎の初主演作でもある。
タイトルともども20代の作家が書いたみずみずしい詞です。
作曲は多くの日本映画を手がけた佐藤勝。裕次郎では「俺は待ってるぜ」ほか「錆びたナイフ」、「風速四十米」も。
「狂った果実」はジャズのスタンダード[Where or When]を思わせるようなジャジーな感じがします。


次は「青年の樹」。これも、本人の原作の映画主題歌。

https://youtu.be/nNDrwaEpIRQ

35年の日活作品で、主演はもちろん石原裕次郎。ヒロインはかの芦川いずみ嬢。笹森礼子さんも出ております。
主題歌も裕次郎(テイチク)がうたうのかと思いきやなんとビクターの三浦洸一。曲はかの山本直純。山本直純の流行歌といえば「男はつらいよ」が知られていますが、映画主題歌としては「風は海から吹いてくる」ほか赤木圭一郎がうたう楽曲が少なからずあります。
知る人ぞしるCMソング「ミュンヘン、サッポロ、ミルウォオーキー」は曲だけでなく作詞もしております。
三浦洸一はフランク永井と並ぶビクターの看板歌手で、「弁天小僧」「踊子」「東京の人」などのヒット曲があります。
♪空に伸びろ ♪国を興せ 
まさに教育と憂国を秘めた慎太郎節が聴けます。

ここまで書いてきたところで、手を止めテレビを凝視。
高木美帆の1500mがスタート。オランダのビュスト選手が五輪レコードを出し、それを追うかたち。もはや金か銀の二択だ。最後のラップではやや遅れ。最後の直線で大きく手を振って力を絞り出す。恥ずかしながらわたしも手を振ってしまった。
タイムはわずか及ばすの2位。
サングラスを外した彼女の無表情が無念をあらわしている。銀でこれほど落胆するアスリートをみるのもめずらしい。最も自信があった1500mだっただけに胸が痛い。それでもしばらくして笑顔が出た。
勝負ってこういう時、意外とベストではない種目で金を取ったりする。だから1000m、さらには500mで大爆発する可能性もある。
テレビでは「銀」で「おめでとう」といっていますが、彼女は納得しているはずがない。
「レースを振り返って」なんて質問は野暮。まだ3レースあるのですから、全部終わってからでいいんじゃないですか。


話を戻しまして、石原慎太郎の作詞、三曲目は「夏の終わり」。

https://youtu.be/aZleh12CI2Y

昨年亡くなった瀬戸内晴美の代表作(夏の終り)と同じタイトルですが関連はありません。ちなみに年齢も作家生活も瀬戸内さんのほうが先輩。読んでいませんがふたりの往復書簡?の本があるようです。
それよりもこの歌は石原慎太郎が作曲もしております。これがなかなかよいのです。
夏の終り、恋の終わりをアンニュイでシニカルな詞でつづっています。

わたしはペギー葉山とのデュエット(平成3年)で聴いたのですが。オリジナルはその20年あまり前で、うたったのは石原裕次郎。
ペギー葉山のいくつかあるベスト盤のひとつだったのですが、それが行方不明。残念ながらYOU-TUBEにもありませんでした。
あれこそ、慎太郎の魅惑のヴォイスが聴ける貴重な音源なのですが、どなたかUPしてくれないものでしょうか。
まぁ、オリジナルの裕次郎盤もタンゴでかなかよいのですが、やっぱり慎太郎&ペギーのデュエットを聴きたかった。UPされていましたので追加しておきます。

https://youtu.be/7B6K4TMargY?si=ML3nWNseUnCDAwRZ


最後は流行歌ではなく、童謡?唱歌?こどもの歌? ではなく「みんなの歌」だそうです。「さあ太陽を呼んでこい」。

https://youtu.be/Y8iPeNf9KCY

これも作曲・山本直純とのコンビ。
昭和38年にNHKの「みんなの歌」としてつくられました。

♪よあけだ よるがあけてゆく

とはじまる夜明けの歌ですが、岸洋子のうたう「夜明けのうた」(いずみたく・岩谷時子)とはだいぶ趣が異なる。ゆっくりゆったりした感じではなく、山本直純の曲ともどもどこかあわだたしい。「いつまでも寝ているんじゃない」とせかされているような感さえある。でもいい曲だし、いい詞です。昭和20年代、30年代の「合唱の季節」にうたわれそうな労働歌にもさも似たり。
でもいまのこどもたちは、こういう歌をうたうんだろうか。

おまけは、やはりふたりの作家の死についてひとりだけとりあげるのは「不公平」なので西村賢太の歌を。
彼が子どもの頃から現在にいたるまでどんな歌をうたってきたのか、聴いてきたのか興味があります。ただそれほど作品を読んでいるわけではないのでなにを取り上げればよいのか難しいのですが、唯一知っているのは以前読んだエッセイに書かれていた歌。

ある雑誌から「好きな曲は」というアンケートを受けたときに答えた(書いた)のが鶴田浩二の「傷だらけの人生」。

https://youtu.be/KDXprjgJPdQ

短い解説で、この曲の突き抜けたアナクロニズムが、師と仰ぐ藤澤清造や敬愛する川崎長太郎の小説世界と相通ずるものがある、というようなことが書いてあります。
また、私は読んだことがありませんが、彼の私小説のなかに稲垣潤一の歌がときどき出てくるとか。それは以前同棲していた彼女がよく聴いていたからだとか。

純文学の作家だって、通俗的な流行歌のひとつやふたつ好きで聴いているのではないでしょうか。なかにはカラオケで熱唱したり。
酔うと♪思い込んだら命がけ と灰田勝彦の「燦めく星座」(作詞・佐伯孝夫)の一節を口ずさんだのは太宰治。

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