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背なに二本の白い線 [on the park]

有楽町夜景.jpg

雨の公園は何度通っても気分がいい。
これから面倒な仕事が待っているとしても。

今日は風もなく、散り遅れた桜の花びらが引力だけにしたがってほろほろとビニール傘に落ちてきます。

春だけあって公園は雨が降ろうが花ざかり、赤、白、ピンクのツツジが最盛、足元には相変わらずのたんぽぽの群生にまじってちらほらと例年のひなげしも。はるか遠くの休憩所の上には紫にかすんだ藤の花まで。

午前中なので人数が少ないのもまたいい。ゲートボーラーも、パークウォーカーも、相棒の犬と散歩する人も雨に躊躇っているようで見当たりません。

名残惜しい気分のまま仕事場に続く歩道橋にのぼると、遥かスカイラインに靄がかかっております。雨にけむるというやつです。美しい景色です。

「雨にけむる」、そんな歌がありました。
脳内蓄音機でははやくもあの歌が再生されはじめておりました。

昭和33年というぞろ目の年はとても印象的な年でした。
よくいわれるのが高度経済成長のスタート期。
子どもながらに実感しましたその「豊かさ」を、貧しいわが家にもやがてモンスターとなるテレビが侵入してきたのですから。
月光仮面、やりくりアパート、事件記者…みんな家にいながら見ることができたのですから。
長島がデビューし、川上が引退したのもこの年。神様仏様稲尾様で、西鉄が大逆転で巨人を破り日本シリーズを制したのも。野球小僧だったわたしにはまさに忘れられない年でした。

石原裕次郎が銀幕を席巻したのもこの年、「嵐を呼ぶ男」「風速四十米」「明日は明日の風が吹く」などなど。
残念ながら、わたしは東映時代劇一本槍。「任侠東海道」に「水戸黄門」、「快傑黒頭巾」に「丹下左膳」「新吾十番勝負」なんかを。


音楽でいえば、子どもだったわたしの知らないところでウエスタンカーニバルが始まり、ロカビリーのブーム到来。
ポール・アンカが来日し、ダイアナがヒットした、らしい。わたしも、近所のあんちゃんが♪……ダイアナとうたっているのを耳にして、「なんの歌だ?」と思った記憶があります。
残念ながら洋楽はまだ遥か彼方でしたが。それでも目覚めいてた歌謡曲ではお千代さんの「からたち日記」、織井茂子の「夜がわらってる」、三橋美智也の「夕焼けとんび」、大津美子の「銀座の蝶」などが流れておりました。
わたしは好きな神戸一郎の「別れたってをいいじゃないか」を口ずさんでおりました。
♪あああ、花も散るのさ 小鳥も死ぬのさ
なんて、幾つだよって話ですね。

https://youtu.be/lRho8JZdsmk

でもこの年、日本列島津々浦々に流れていたのが、前年の暮れあたりからラジオ、パチンコ店でヘビロテでかかっていたフラック永井の「有楽町で逢いましょう」。
いつでも脳内再生できる名曲です。

代表的なレインソング。雨の日にデートする男の気持ちをうたっております。
なんといってもローケーションが有楽町。これが新しかった。いままでの歌謡曲なら「雨の銀座で逢いましょう」だったのでしょうが、「有楽町」がインパクト大。
地方に住む人間にとっては「有楽町ってどんな素晴らしい街なんだろう」って思ったはず。そんな時代なのでした。

作詞の佐伯孝夫がまた上手いんです。
ビル、ティールーム、ブルース、駅のホーム、デパート、シネマ、ロードショーとカタカナを散りばめて最先端の都会を連想させるのです。

その2番に
♪ああ 小窓にけむる デパートよ

とでてきます。
この時代に生きた歌謡曲好きは、イントロクイズでこの歌がかかれば、ほぼ間髪を入れず「ピンポン」と鳴らせるはずです。

昭和30年代の雨にけむる歌をもう一曲知っています。「有楽町―」から5年あまり経った、東京五輪の前の年に生まれた歌。
こちらはそれほどヒットはしませんでしたが、なぜか心に残るうたでした。とりわけ「背なに二本の白い線」という歌詞が性徴著しいわたしを刺激したことを覚えております。

https://youtu.be/BFAuWKSAB1g

35年に「悲しき六十才」でデビューした坂本九(ダニー飯田とパラダイスキングのヴォーカルとして)全盛期の一曲。
作詞は坂本九自身で、作曲者は不明。

平尾昌晃の「ミヨちゃん」の続編みたいな歌ですが、こちらはやがて結婚し、子供ができて、というように暗い音調のわりには幸せな将来を妄想するストーリーに。
やはり2番に、♪小雨にけむる並木道 と。
その後ドリフターズにカヴァーされたので、こちらで知っている人の方が多いのかも、もはや。

昭和30年代の雨にけむる歌はどちらも、経済成長に裏付けされた希望にあふれる歌でしたが、それから10数年が経ち、成長神話に翳りが見え始める頃、雨にけむる歌は、そうした社会背景を反映した「別れ」の歌に変っておりました。

https://youtu.be/LbQcTcI49JQ

仕事場へ向かう小雨にけむる公園でわが脳内蓄音機にはじめに流れた曲は、実はこの曲でした。

この曲が流れていたおよそ45年前の時代のことも、まさに雨にけむるような自分のこともよく覚えております。この曲が栞というか時代のインデックスとしてあの時代を呼び起してくれるのです。今となってはとても貴重な歌です。
歌の設定は五月ですが、少しフライングぎみにこの歌を聴いてみました。




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