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昔、東京は砂漠だった [歌謡曲]

東京砂漠.jpg

https://youtu.be/fpC2SvF0hf8

昭和30年代半ば。まさに高度経済成長の真っただ中。
そのころ東京では、いまではおよそ考えられない現象が起こっていました。それもふたつ。

ひとつは「スモッグ」と呼ばれた大気汚染。フル回転で稼働する工場の排煙とクルマの排気ガスによって東京の町は霞がかかったように煤けていたのです。
そして、もうひとつが水不足つまり渇水による、ひんぱんな水道の断水。

わたしは子供でしたが、大人たちがボヤいていたのは耳にしましたが、切迫感とか危機感はまるでなかった。暢気なもんでした。
たしかに断水はありましたが、時間が限定的でしたし、場所によっては給水車が回っていた所もありましたが、わたしは水を汲みに走った経験はありません。
また、スモッグにしてもマスクをするとか、外に出ないなんてことはなく、学校が終われば上級生も下級生も広場に集まり、クタクタになるまで遊んでいました。

まぁ、そんな昭和30年代の「水不足」をたしかに新聞などのマスコミは「東京砂漠」と呼んでいました。

当時、東京は排ガスにおおわれた「砂漠」だったのです。

内山田洋とクールファイブの「東京砂漠」がリリースされたのは昭和51年(1976)。東京が渇水と大気汚染でよどんでいた頃から10年以上経ったころです。

実はその5年まえ(昭和46年)に東京を砂漠と呼んだ歌がありました。
いしだあゆみの「砂漠のような東京で」です。曲は昨年亡くなった筒美京平、詞はGSの「ブルーシャトー」などで知られる橋本淳。
詞の内容は、砂漠のような潤いのない東京であっても、私は彼に愛を捧げるという女心をうたった歌謡ポップス。まぁ歌謡曲の王道のひとつですね。

♪砂漠のような東京で 貴方一人のしもべとなって 夜も寝ないで女の真心 私は私は尽くすのよ

と今ならジェンダーからクレームがきそうな歌詞です。
この歌の2年前に奥村チヨの♪悪い時はどうぞぶってね というDVオーケーという「恋の奴隷」がヒットしています。半世紀前の話ですが大変な時代でした。

話を砂漠に戻しまして。
昭和30年代中盤から40年代前半にかけての東京砂漠は、クールファイブが「東京砂漠」をうたった51年にはほぼ解消されていました。にもかかわらずこの歌が世にでて、ヒットしたというのは「砂漠」のイメージが水問題ではなく、愛の不毛や心の渇きという愛情問題に変っていったからでしょうね。
「愛の砂漠」(ザ・ピーナッツ)とか「砂漠の薔薇」(ビリー・バンバン)なんて歌もありましたし。

とりわけ首都・東京では、生きていくためには、自分が倖せになるためには他人のことなどかまってはいられない。砂漠化がよりすすんだ冷たいというか薄情な都市というイメージが強かったのでしょう。

そういえば子供の頃、地方に住む従弟が東京で働きたいといって私の家に2年あまり滞在したことがありました。
その後、故郷に帰って自衛隊員になったのですが、わたしが大きくなってある法事で顔を合わせた時、昔話になり、「あの頃の東京ってどうだったの?」と訊ねると、ひと言「嫌な街だったよ」とつぶやきました。

詳しくは訊きませんでしたが、嫌な思い出があったのでしょう。

東京に出てきて失意のうちに地元へ戻った人間にとってはまさに東京は砂漠みたいな味気ない街なのでしょう。その反対に仕事も恋愛もうまくいった(運が良かったに過ぎませんが)人間たちは♪花の都・大東京 なんてうたってしまうんでしょうね。
やさしい人には住みにくい街だったのかも。今でもそうかもしれません。

思い出話はこのへんで。

とにかく「砂漠」が地理地形の話ではなく「愛情」あるいは「人間関係」の話と考えれば「東京砂漠」は昭和どころか、いまだに続いてるといえます。というかこれはもう東京に限ったことではなく普遍的な人間の永遠のテーマですね。

クールファイブの「東京砂漠」、作曲はリーダーの内山田洋。
一世一代の作品といってもいいのではないでしょうか。
作詞は吉田旺で、「喝采」や「紅とんぼ」、「夜間飛行」などちあきなおみの作品を多く手掛けています。

印象的なアレンジは森岡賢一郎。
昭和30年代は主にカヴァーポップスを、そして40年代から50年代にかけては多くの邦楽に味付けした伝説の編曲者です。

「君といつまでも」(加山雄三)、「ブルーシャトー」(ジャッキー吉川とブルー・コメッツ)、「想い出の渚」(加瀬邦彦とワイルド・ワンズ)、「冬の駅」(小柳ルミ子)、「霧の摩周湖」(布施明)、「小指の想い出カ」(伊東ゆかり)、「涙のかわくまで」(西田佐知子)、「忘れな草をあなたに」(菅原洋一)、「よろしく哀愁」(郷ひろみ)、「水色の恋」(天地真理)などなどなどなど。そうでした「砂漠のような東京で」もそう。

どれもそのイントロや間奏がすぐに脳内蓄音機で再生できるほどの名アレンジです。
そんななかから一曲。53年の歌です。

https://youtu.be/9No_C4Lk7h8?si=WUVQlQcgAH3ncFHV

前川清の「東京砂漠」は意外とカヴァーが少ない。
演歌歌手がこぞってうたっていそうですが、そうでもない。
なによりもムード歌謡の多くあるグループがカヴァーしてもよさそうですが、聴いたことがありません。なにか制約でもあるのでしょうか。

YOU-TUBEで聴けるカヴァーは、ちあきなおみ、中森明菜、島津亜矢、八代亜紀と歌の上手い歌手が「参戦」しておりますが、個人的にはアレンジがオリジナルに近く、あの時代の雰囲気が伝わってくる八代亜紀が心にしみます。(画像がちょっとつらいけど)

https://youtu.be/cIQWIWkCGOw

冒頭のYOU-TUBEの前川清と渡辺香津美とのセッションは最高でした。
前川清ワールドは言わずもがな、オリジナルアレンジをベースにした渡辺の切ないギターがすばらしい。
最後は、もちろんあの頃(昭和52年)のオリジナルで。
コロナ砂漠でギスギスした昨今ですが、「やさしさをどこに棄ててきたの」なんて言われませんように。自戒をこめて。

https://youtu.be/AGqqalMr6v0

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